東京地方裁判所 昭和28年(ワ)2846号 判決 1954年8月20日
主文
原告等の請求は之を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実
原告等は「一、被告国は原告加藤タカ及び同加藤源太郎に対し別紙目録記載の家屋を収去し、又被告東京教育大学附属小学校は同原告等に対し被告出牛日吉、同平塚義和及び同神田文次郎を別紙目録記載の家屋より退去せしめた上、被告国、同東京教育大学附属小学校同東京教育大学附属小学校PTAは原告等三名に対し別紙目録記載の土地を明渡すべし。二、被告出牛日吉、同平塚義和及び同神田文次郎は原告加藤タカ及び同加藤源太郎に対し別紙目録記載の家屋より退去してその敷地を明渡すべし。三、訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決、並に仮執行の宣言を求め、請求の原因として、原告加藤タカは別紙目録一記載の土地の旧所有者都築定治より昭和二十七年四月八日代物弁済に依り之を取得し其の登記を了し、又原告加藤源太郎は別紙目録二、記載の土地の中保谷町大字下保谷字北新田二一五の四四同四五、同四六の三筆を旧所有者都築定治より昭和二十七年四月八日代物弁済に依り、別紙目録二、記載の土地中其の余の土地を同年同月二十一日旧所有者都築定治より代物弁済に依り取得し其の旨登記を経て居た井口ナツ子(旧姓加藤)より昭和二十八年二月五日附売買に依り夫々之を取得し其の登記を了し、又原告加藤誠吾は別紙目録三、記載の土地の前所有者佐藤清一より昭和二十八年三月二日附売買に依り之を取得し其の登記を了したところ、其の地上には被告国の所有にして、被告東京教育大学附属小学校の管理に係る林間学校校舎及び留守番用居宅並に小屋等が別紙目録記載の如く存在し、其の空地部分は山林をも含めて被告東京教育大学附属小学校及び同校PTA(代表者会長浦田関太郎)に於て同校試作地として校外園に使用し麦作等を為し来つたが、従前の所有者の所有した当時から賃貸借契約も将又使用貸借契約も存在せず、使用するに付き何等権限を有せぬ関係に在る。而して別紙目録記載の土地の中、原告加藤タカ所有に係る保谷町大字下保谷字北新田二一五の六地上には木造トタンセメント瓦交葺平家建一棟建坪七十坪二合五勺の校舎があり、此の家屋中約十五坪には被告出牛日吉が居住し占有使用中であり、同所二一五の二七原告加藤タカ所有宅地及び同所二一五の四四原告加藤源太郎所有宅地上には各九坪に跨つて木造トタン葺一部煉瓦造平家建一棟建坪十八坪の小屋があり、之には被告平塚義和居住して占有使用し、更に原告加藤タカ所有に係る同所二一五の四七宅地上には、木造瓦葺平家建居宅一棟建坪十五坪があり、之には被告神田文次郎居住して占有使用中である。又同所二一九宅地上には木造トタン瓦交葺平家建一棟建坪五十二坪二合五勺の校舎があるが目下何人も之を使用して居ない。加藤タカ、同加藤源太郎及び井口(旧姓加藤)ナツ子は本件土地の不法占拠者である被告東京教育大学附属小学校に対し昭和二十七年六月十四日附同月十六日到達の書面を以て其の引渡方を請求したが、同被告は之に応じない。原告加藤誠吾は土地の前所有者佐藤清一より同被告に対し引渡を求めて居た其の地位を承継した。依つて原告等は夫々土地所有権に基き被告国に対しては別紙目録記載の建物の所有者として、被告教育大学附属小学校に対しては其の建物の管理者として、被告同校PTA(代表者会長浦田関太郎)に対しては同被告自ら本件土地に関する管理者と主張するので、又被告出牛日吉、同平塚義和及び同神田文次郎に対しては夫々建物の占有者として請求の趣旨掲記の如き判決を求める為本訴請求に及んだと陳述し、
被告等の主張に対し(第一)本件土地が農地であることは否認する。(い)本件土地は明治年間より内三筆が山林であつた外地目宅地で、又事実上も当初より宅地であつた。例えば被告等の占有使用前本件土地の中二一九宅地上には高田奥蔵の住宅、二一五の二七宅地を含む周辺の地には高田文四郎の住宅が存在した。(ろ)本件土地は農地台帳には勿論記載なく、一筆調査の対象となつたこともなく、嘗て農地として処理せられたことはない。(は)被告も本件土地を農地法(旧農地調整法)に所謂農地として肥培耕作したことはなく、最近農地に近い現況を呈して居るにしても本裁判係属後のことに係るのみならず現に林間学校校舎居宅倉庫等存在し、農業経営の目的の下に耕作事業に供せられては居らず、所謂家庭菜園に外ならぬ。(に)被告等は昭和二十三年七月本件土地所有権を取得したと主張し乍ら、農地としての措置を執らず、本件土地二一五の二〇並に同の二一の北隣に当り本件土地と同時に使用を開始した二一〇の一七宅地百九十六坪、二一五の一九宅地二百三十五坪を昭和二十八年三月十一日東京高等師範学校内初等教育研究会名義に於て、昭和二十三年五月五日旧所有者都築定治より買受けた大山弘より更に買受け登記するに当つても、農地としての手続を講じなかつたが、之即ち被告等に於ても本件土地を農地とは考えて居なかつた証拠である。(第二)被告等は本件土地を以て農地であるとし、農地としての手続を経ないで取得した原告等の所有権を争うけれども、斯る主張は法律上許され難いところである。(い)前叙の如く被告等は本件土地を自ら買受け取得したと主張し乍ら、其の際は本件土地を以て農地でないことを前提して居り、本訴に於ける主張と矛盾して居る。若し本件土地にして被告等主張の如く農地であるとすれば、被告等の買受取得は脱法行為で、其の効はない筋合である。前叙大山弘より買受取得した行為に関しても同断である。(ろ)被告等は本件土地を以て農地ではないとの前提に立ち買受け乍ら、本訴に於ては原告に対しては之を農地であると主張する。斯くの如きは所謂禁反言の原則に抵触し、民法第一条の精神に鑑みるも許さるべからざるもので、畢竟、被告等の主張は理由がないと述べた。
(立証省略)
被告東京教育大学附属小学校及び同校PTAは原告等の訴を却下するとの判決を求め、同被告等は法人格を具へぬに依り被告たるの適格はないと陳述し、
次で被告等は原告等の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、別紙目録記載の土地に付き原告等の為に其の主張の如き所有権移転登記の行われて居ること、其の地上に被告国の所有で、現に東京教育大学の管理中の別紙録記載の建物の存すること、(但し地番坪数用途には多少の相違がある。)被告国、同東京教育大学附属小学校に於て別紙目録記載の土地を占有して農作物を栽培し、被告出牛日吉、同手塚義和及び同神田文次郎が原告等主張の如く建物に居住し其の敷地を占拠中であることは認めるが、其の余は争う。被告東京教育大学附属小学校PTAは別紙目録記載の土地を使用しては居らぬに反し、原告等が被告等に於て不使用と称する保谷町大字下保谷北新田二一九地上の建物は被告東京教育大学附属小学校に於て田園教室として使用中である。抑々本件土地は昭和十二年六月東京教育大学の前身である東京高等師範学校に於て学友会名義を以て当時の所有者高橋文太郎より其の他の土地共計約三千六百坪を賃借し、爾来同校附属小学校児童の為に田園教場として使用し来つたものである。其の間本件土地は高橋文太郎より都築定治に売却せられたが、被告国は引続き之を使用し、農地調整法第八条に基き賃借権を以て都築定治に対抗し得る立場に在つた。然るところ終戦後農地改革の施策の進行に伴い、学校農園の確保が全国の問題となり、昭和二十二年農林省は知事に対し、又文部省は学校に対し学校用地に付き自作農創設特別措置法第五条第一号に依る買収除外の取扱を為すべき旨通牒を発したので、東京教育大学に於ても此の指示に従い、同年九月中保谷町農地委員会に対し本件土地は東京教育大学(即ち被告国)に於て田園教場として使用中の農地で自作農創設特別措置法第五条第一号に該当し、同法第三条に従い買収せられることのない土地であることを通告し、同委員会に於ても本件土地が自作農創設特別措置法第五条第一号に該当する旨の裁定を為した。而して其の間都築定治は東京教育大学に対し本件土地に付き離作を要求するに至つたので、同大学に於ては附属小学校主事佐藤保太郎をして之を処理せしめることとし、佐藤主事は弁護士浦田関太郎及び高橋銀治の協力を得て交渉を重ねた結果、本件土地は同大学に於て買収することに決し、昭和二十三年七月三日都築定治との間に売買契約を締結し、代金弐拾四万五百九拾円を分割し、同月十日金七万円、同年十月末日金七万円、同年十二月十五日残金を支払うこととし、所有権移転登記手続は同年十二月末日迄に履践することに定め、同大学は第一、二回の割賦金の支払を為した上、都築定治に対し再三登記手続の履行を求めたが、同人に於て之を履行しなかつた為、同大学に於ても残余の支払を保留して今日に至つた。然るに原告等は昭和二十七年六月都築定治より本件土地所有権を取得したと称し、同大学に対し土地の返還を要求するに至つたので、同大学に於ては原告等に対し原告等が所定の許可なくして本件土地を買受けたこと、並に耕作を妨害することの違法なことを通告し、其の反省を求めると共に、都築定治に付き事情を調査したところ、同人は原告加藤タカの夫で、其の余の原告等の父加藤源蔵に対し買受代金債務あり、厳重な督促を受け、強迫せられた為其の要求に任せ担保として本件土地権利証等を同人に交付したが、其の際本件土地は既に東京教育大学に売却済故断じて登記手続を為すべからざる旨告げたこと、従つて同人より被告国以外のものに売渡したものではない旨判明するに至つた。以上の次第で本件土地は何れも登記簿上原告等に於て都築定治より直接又は間接に之を取得したことになつて居ても、前叙の如く都築定治は被告国以外の者に譲渡したことはない故、原告等は正当権利者ではない。又仮に都築定治対原告加藤タカ同加藤源太郎及び井口ナツ子(旧姓加藤)佐藤清一等間に、而して又井口ナツ子(旧姓加藤)対原告加藤源太郎間及び佐藤清一対原告加藤誠吾間に夫々本件土地に関し所有権移転契約が締結せられたとしても、本件土地は農地調整法第二条所定の農地であり、同法第四条に依り、農地の所有権は知事の許可又は農業委員会の承認を受けるにあらざれば之を移転することができぬことに定まつて居るところ、都築定治より原告加藤タカ同加藤源太郎等に対する所有権移転登記に当つては知事の許可又は農業委員会の承認を得て居らぬので、其れ等の行為は無効で、従つて原告等に於て本件土地所有権を取得すべき謂われはないと陳述した。
(立証省略)